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L'ampleur

Kyoto-Karasuma kimono diary

猫は跳ぶ

2008-08-30-Sat-22:50
Elizabeth Dorothea Cole Bowen(1899-1973)
アングロ・アイリッシュの女性作家、Elizabeth Bowenの短編「The Cat Jumps」を読む。

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はじめて読む、エリザベス・ボウエン。前から気になっていたものの図書館で探すのが億劫で、やっとオムニバスから入門。福武文庫の『イギリス怪奇傑作集 猫は跳ぶ』。

初出は1934年のアンソロジー、The Cat Jumps and Other Stories。

過去に殺人事件のあった屋敷の値段の安さに嬉々として転居する夫婦、新居祝いに集まった友人たちとの会食がいつしか奇妙な空気に包まれて・・・。
隣に人が居るから恐ろしい、サイコロジカル・ホラー。

屋敷で何が起きたのか。過去の殺人事件については小説に(怪奇小説に)ありがちな説明段落もなく、ただ「空気読めない」友人の口からポロポロとこぼれ出る謎めいたうわさ話が繰り返されます。夜更けとともにエスカレートしてゆく「殺人者のうわさ」と初めも終わりも分からぬぼんやりとした恐怖。
ボウエンの作品は、読み手を恐怖と興奮の中に取り残してぴっちりとその扉を閉ざします。


ところで私は一息読んで、「ほんで猫は?」と思ったのですが(猫はあくまでも修辞としてのみ登場するばかり)、これは『See which way the cat jumps.(日より見する)』などのイギリスの慣用表現で「情勢を見る、大勢が決する」とゆうことのようです。 そんなこと知らんがな、と思いつつも知らないゆえにこの「猫は跳ぶ」ってゆうタイトルがより怪奇短編にふさわしい締まったものに感じられました。

締まっているといえば、訳者も冴えているのか、書き出し、結びがとても印象的。簡潔なんだけど、ぐっと持ってかれる。まるで数学の練習問題に出てくる、クリアな線で描かれた複合図形を見ているような気持ちになりました。


・・・・食卓を囲んだ全員の知的な顔になが・・・・・たとえば明確さのようなものが・・・・・・欠けていた。溶鉱炉の火に一瞬さらされた蝋人形の顔のようだった。暗い秘密の洞穴から出てくるような声。不信任票を投げつけあうような会話。だれもがある種の人格破壊に襲われたかのようだった。

・・・・そういえば電球に煙のような薄い幕がかかったかのようにぼやけていることに全員が気付いていた。明かりが薄らいでいってひとつひとつのランプがぼやっとしたオーロラの魂のように見えた。自分の気のせいだと思ってだれも言い出さなかったのだ。
「電気ってのは変なもんだね」とハロルドがいった。
うなずいたのはカターレットだけだった。


そんなこんなの中で、登場人物たちによってとりとめなく繰り出される「」の言葉が絡み合って、じんわりと終わりのない恐怖が体の中に忍び込んできます。幽霊が出てくるわけではなく、それでもってシャイニングのような狂気のおっかけっこでも無く。とゆうわけで、ネタバレのしようも無く・・・。

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ちなみにこのアンソロジーは、旺文社文庫の選集『夜光死体』の再編集版のため、猫までの道のりは・・・コナン・ドイル「革の漏斗」、「故エルヴィシャム氏の物語」H・G・ウエルズと王道をゆき、「ある古衣の物語」の古典的恐怖の洗礼を受けることになります。
最後に収録された、「月に撃たれて」ではスイスの山奥に、レンズ狂魔界が登場。作品全体に漂う遣る瀬無さがまさに乱歩、でした。

昔のミステリー作家は短編がシブイ、と思うけれど、突き刺さるような心理描写と一種の幻想小説的スパイスも効いたエリザベス・ボウエン、長編が読みたい。ついでにこのビミョーな感じを是非原文でも読みたいな。
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